大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪高等裁判所 昭和41年(ラ)299号 決定

理由

抗告人は、「原決定を取消す。本件競落はこれを許さない。」との裁判を求め、その抗告理由の要旨は、目的不動産について賃貸借の取調が不充分であり、そのため賃貸期間及び敷金が不明であるとして公告がなされたのは、民事訴訟法六五八条の要件を充たしていない。また、鑑定人は物件の時価が三〇〇〇万円を下らないと思われるのに二〇〇〇万円を下廻る評価をなし、したがつて、これに基く裁判所の最低競売価額の決定は低きに失し、目的物件上に抵当権を有する抗告人の権利は不当に制限された、と謂うにある。

しかしながら、競売期日の公告に賃貸借の期限敷金等を掲記すべきことになつているのは、競買希望者をして競買申出価額を判定せしめ、或は、競落人をして不測の損害を蒙らしめないようにするための資料を得させるにあり、その点につき関係者の調査の労を一切無用としこれを省略せしめることを目的とするものではないから、本件記録にあらわれているように、裁判所が執行吏に賃貸借の取調べを命じ、その報告が比較的詳細であるにもかかわらず賃貸期間・敷金についての記載がないときには、執行吏がこれを調査したが不明であつたものと推認し、その場合、競売期日の公告には、それらを不明として記載すれば足り、それを以て民事訴訟法六五八条の要件を欠くものとは言えない。次に、本件記録によれば、競売裁判所は鑑定人小出憲の評価を基礎として、初め、目的物件のうち、五五番の三宅地の最低競売価額を一七九六万二〇〇〇円、五五番の四宅地のそれを一〇〇万円、それら地上建物のそれを一〇〇万二八二〇円と定め、以て競売期日を開いたが競買の申出をする者が無く、そこで右最低競売価額をそれぞれ一六一六万五八〇〇円、九〇万円、九〇万二五四〇円に低減し、新競売期日を開き、茲に漸く競買の申出を見るに至つたことが明らかであるから、右経緯に照らし、右裁判所のなした最低競売価額の決定は、相当であつたと謂うべきである。(抗告人は下湯北木之助作成の鑑定書を提出し、右価額が低きに失すると主張するが、不動産鑑定は鑑定人を異にすればその評価も亦おのずから若干の差異を来たし、殊に、売買等の通常の経済取引に於ける時価と競売手続に於て形成される競売価額との間には相当の開きがあり、通常後者の方が前者より低額になることは、経験則上首肯されることであつて、これまた、やむを得ないところである。)

すると、本件抗告人の主張はすべて理由がなく失当であり、その他記録を調査しても、原決定を取消すべき違法はないから、主文のとおり決定する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例